肩関節外来 | 茨木市にある谷川記念病院 整形外科・鼠径ヘルニア・人工関節・肩・痔・関節痛・骨折・腹痛・交通事故など様々な症状に対応

肩関節外来

肩関節疾患

 中高年の肩障害は「五十肩」とひとくくりにされることが多いですが、その中には、腱板断裂、インピンジメント症候群、石灰沈着性腱板炎、拘縮肩、上腕二頭筋長頭腱炎、肩鎖関節の障害、変形性肩関節症など様々な疾患があります。また、若年例に多い肩障害として、反復性肩関節脱臼、ルースショルダー、スポーツ障害肩などがあります。
しかしながら、それらの疾患には必ず原因があり、疾患はあくまでも結果でしかありません。そのため、疾患だけを手術で治療しても再発してしまうことが多々あります。
すぐに手術が必要な場合もありますが、先ずは手術ではなく、しっかりと原因を精査して、リハビリテーションや日常生活の改善を行ったうえで、手術の必要性を考える必要があると私は考えています。

肩関節鏡視下手術

 肩障害には様々な疾患があります。これらの疾患に対して、従来は大きく傷を作り、内部を開いて行う「切開手術」が一般的でした。肩関節は、皮膚、皮下脂肪、筋肉などの組織に包み込まれているため、従来の切開手術では肩関節に到達するまでにこれらの組織に傷を付けざるを得ませんでした。
 しかし、「肩関節鏡視下手術」では関節外の組織を殆ど傷つけずに内部の処置が可能です。肩関節鏡視下手術は、肩に5~10mm程度の小さい穴を数個あけ、そこから関節鏡を挿入して肩関節の内部を覗きながら行う手術のため、従来の切開手術に比べて、傷跡が小さく目立たないなどのメリットがあり、体にやさしい最先端手術です。

代表的な肩疾患

腱板断裂
腕を挙げる動作には三角筋と共に肩甲骨と上腕骨をつないでいる腱板が重要な役割を担っており、この腱が断裂してしまうと、腕を挙げる動作がしにくくなったり、挙げ降ろしの時にひっかかり感や痛みを感じたりします。怪我が原因で起こることもありますが、徐々に症状が出てくることが多く、一般整形外科医の中では、「五十肩」として扱われている場合が多く、MRIや超音波検査にて診断が可能です。徐々に症状が出てくる場合、日常生活での姿勢や腕の使い方に問題がある場合が多く、リハビリテーションによりそれらを改善する必要があります。
私は、漢方薬とリハビリテーションをメインで治療を行いますが、痛みに応じて鎮痛剤の内服や注射も行います。症状が強い場合には断裂した腱板の修復手術が必要になりますが、その場合でも必ず手術前後にリハビリテーションが必要と考えています。
 手術の際は内視鏡で腱板を修復する「関節鏡視下腱板修復術」を主に行います。スーチャーアンカーといわれる糸がくっついた固定材料を骨の中に埋め込み断裂した腱を骨の中に縫い合わせていきます。手術の後は、修復した腱に負担をかけず、腱が治り易くなるように腕を広げた状態を維持するために、肩外転固定装具の装着を4~8週間装着します。
術後は必ずリハビリテーションが必要となり、しっかりと修復された場合でも、リハビリテーションを怠ると再断裂を起こします。
インピンジメント症候群
 インピンジメントとは衝突を意味し、腱板断裂を引き起こす予備軍の症候群のことです。腕を挙げる動作や捻じる動作で、肩甲骨と上腕骨の骨同士の衝突と痛みが生じます。原因に肩甲骨の位置や動きの異常などが多く、一般的には痛みのない場合は経過観察を行われていますが、腱板断裂に進行してしまう場合があるため、私は痛みがない場合でもリハビリテーションにより、肩の動かし方を改善する必要があると考えています。
 インピンジメント症候群の検査にはレントゲンとMRI検査、超音波検査が有用です。
 インピンジメント症候群は基本的にリハビリテーションを行いますが、衝突による肩甲骨の骨棘が大きく、痛みが改善しない場合は肩関節鏡視下手術を行い、衝突する余計な骨を切除したり、滑液包の炎症を取り除いたりすることで症状は軽快します。術後は、腱板断裂術後のような装具の固定は不要ですが、やはり再発予防のためにはリハビリテーションで肩甲骨の異常を矯正していくことが必要となります。
腱板炎、石灰沈着性腱板炎
 腱板を無理に使いすぎると、腱板自体の炎症(腱板炎)や腱板の表面に石灰が溜まった状態(石灰沈着性腱板炎)が起こることがあります。石灰が沈着している状態ではレントゲンを撮らない限り気付かないです。軽度の打撲などをきっかけとして、石灰の一部が溶けて激痛となり、病院に受診して発見されることが多いです。あまりにも痛みが強い為、脱臼したのではないかと疑われ来院されることもあります。激痛は炎症を抑えるステロイド注射と鎮痛剤で1~2週間で改善することが多いですが、その後も軽度から中等度の痛みが残る事があり、インピンジメントと同様のリハビリテーションが必要となります。また難治性の場合には、関節鏡視下に石灰除去術を行う事で症状は軽快します。手術の後はやはりリハビリテーションが必要です。
拘縮肩
 拘縮肩とはいわゆる五十肩であり、肩の痛みと肩の動きの制限が主な症状です。一般的には徐々に痛み(特に夜間痛)が出現しその後に動きの制限が起こってきます。自然経過で症状が改善する場合も多い疾患です。しかし、外傷に続発した場合や、糖尿病や甲状腺疾患に合併した場合には治療が長期化する可能性が高くなります。
 私は夜間痛がある時期は漢方薬を処方し、痛みと動きの制限の兼ね合いを見ながらリハビリテーションを主に行います。痛みの強い時期には炎症を抑える注射や、鎮痛剤を処方します。1年以上可動域制限が続いた場合、難治性となる事が多いため、リハビリテーションを行い可動域が改善しない場合は、半年から1年の間に手術をお勧めしています。
 手術は肩関節鏡視下で関節の動きを制限している関節包と呼ばれる関節の袋を広げる関節鏡視下関節包切開術を行います。分厚くなっている関節の袋が広がると、肩関節の動きの改善とともに夜間痛を中心とした肩の痛みが改善されます。手術後の装具は不要です。拘縮肩の場合、肩関節の動きは関節鏡視下手術で改善しますが、肩甲骨の動きの制限は改善しません。そのため、術後は肩の軽さを感じますが、可動域はすぐには改善されず、術後のリハビリテーションにより肩の動きを少しずつ取り戻していく必要があります。肩の手術の中では特に手術直後のリハビリテーションが重要となります。
上腕二頭筋長頭腱障害
 腕の力こぶを作る筋肉である上腕二頭筋の内の一本(長頭腱)は肩関節の中を通っています。頻繁に肩を捻じる動作をしたり、腕を引っ張る動作を極端にしたりすると、長頭腱の障害を引き起こし痛みの原因となります。リハビリテーションにて肩の動きを変えていくことにより症状が改善されることが多いです。痛みに応じて物療や注射などを行います。十分に効果が得られない場合には、長頭腱の切離や固定等の手術が必要になることも稀にあります。
肩鎖関節障害
 鎖骨と肩甲骨との間の関節を肩鎖関節といい、関節炎や変形が生じる場合があります。私はほとんどの原因は姿勢の悪さが原因と考えています。実際にリハビリテーションにより姿勢を改善することで痛みが軽減されることが多いですが、重度の関節炎や変形の場合には、関節鏡視下に肩鎖関節の骨を部分的に切除することもあります。
反復性肩関節脱臼
 転倒やスポーツ中の外傷などをきっかけに肩関節の脱臼が起こり、それが癖になって何度も肩が外れるようになってしまった状態が反復性肩関節脱臼です。肩関節が脱臼したことで、上腕骨と肩甲骨の間にある靭帯が骨から剥がれたり裂けたりしている場合が多く、この靭帯の損傷は自然には治りにくいために反復性になりやすくなります。若年者ほど反復性脱臼に移行する可能性が高く、私は3回以上脱臼した方には基本的に手術をお勧めしています。
 従来の切開手術では、正常な組織を傷つけたり正常な構造を変えたりするため、術後に肩が硬く動きの悪い状態になってしまっていましたが、関節鏡視下手術では、悪い靭帯の箇所だけを正確に修復できるので、肩の硬さを起こさず肩が外れない状態を作ることが可能となります。手術の後は修復した靭帯にストレスをかけないようにするために、肩中間位固定装具の装着を3~4週間行い、その約1ヶ月後には日常生活での支障は概ねなくなります。その後、約2~4ヶ月間のリハビリを行うことで様々なスポーツへの復帰も可能になりますが、術後の状態やスポーツ特性により異なります。
ルースショルダー
 先天的に肩関節の安定化に関わっている靭帯が緩い状態の肩です。なんの症状もなく過ごせている人から、軽い外傷をきっかけにぐらぐらした肩の状態になってしまった人まで様々です。特徴的な症状は、腕を下にひっぱると肩が亜脱臼し、肩関節の上に大きなくぼみが見られます。リハビリテーションをしっかりと行う事で症状は軽減され、日常生活に不自由を感じなくなる方がほとんどですが、保存的治療でも症状の改善が無い場合には、関節鏡視下に緩い靭帯を縫い縮める手術を行う事があります。術後は反復性脱臼と同じようなリハビリテーションを行いますが、私はほとんどの方に手術は必要ないと考えています。
スポーツ障害肩
 スポーツ障害肩とは、野球、バレーボール、テニスなどのボールを投げたりする時に肩の痛みが生じる障害です。肩だけではなく、首、上腕、肘の痛みが出てくる場合もあります。その原因は、肩関節の内部に問題がある場合と、肩の周囲筋のバランスが悪く円滑な力の伝達ができなくなっている場合があります。後者の場合が圧倒的に多くリハビリテーションにより痛みが改善されますが、その原因は肩周辺に限局されず、腰の筋肉の硬さ、股関節の硬さ、バランスの悪さなど、場合によっては足の問題など、全身を調節していく必要があります。それにより肩の障害が改善されるだけではなく、スポーツのパフォーマンスが向上されることが多々あります。しかし、前者の場合にもリハビリテーションにより改善を目指しますが、痛みが残存する場合は、肩の安定性に関与している関節唇と呼ばれる部分の修復のための手術が必要となります。スポーツをする時に肩は非常にデリケートな動きを必要としますので、出来る限り手術による治療は避けたいと考えています。
変形性肩関節症
 肩関節の軟骨がすり減り、骨同士がこすれる状態になってしまっている状態です。程度が軽い場合には、傷んだ軟骨や炎症部分を取り除く関節鏡視下手術が有用ですが、程度が高度の場合には関節鏡視下にはできず、人工関節置換術が必要になります。
 変形性肩関節症には腱板が残っている場合と腱板が残っていない場合があります。腱板が残っている場合には、変形した部分を取り除いて通常の骨と同様の構造の「通常型人工肩関節」に交換します。一方、腱板が残っていない場合には、著しい変形を起こしてしまうため、変形した部分を取り除いて、『リバース型人工肩関節』を用いた人工関節置換術を行います。リバース型人工関節の場合、通常の肩関節の頭と受け皿の構造が真逆の形態になっているため、関節の変形の問題と腱板の問題の両方を同時に治すことが可能になり、関節の安定化と手を挙げる動作の改善が期待できます。
 手術の後は、通常型人工肩関節の場合、三角巾固定が約1週間必要で、その後、約3~6ヶ月間のリハビリテーションを行います。リバース型人工肩関節の場合、装具固定が約2-3週間必要ですが、通常型と同様に、その後、約3~6ヶ月間のリハビリテーションを行います。
 変形性肩関節症になるにはそれまでの肩の使い方に問題がある場合がほとんどです。悪化して人工関節置換術を行わないといけない状態になる前にリハビリテーションや運動にて肩に負担のかからない動きを練習することが重要だと考えています。肩の痛みの緩解増悪を繰り返す場合は一度相談に来て頂ければと思います。

肩のリハビリについて

 肩は腕を動かす1つの関節と捉えられがちですが、上腕骨・肩甲骨・鎖骨の3つの骨と、それらの骨をつなぐ肩甲上腕関節・肩鎖関節・胸鎖関節・肩甲胸郭関節などの複数の関節によって肩がつくられています。
 肩を痛みなくスムーズに動かすためには、骨や関節だけでなく筋肉がバランスよく動くことが必要です。
 また、肩は身体の様々な部位の影響を受けます。猫背などの姿勢不良、肩以外の関節の硬さ、全身の筋バランス不良や筋力低下などからも肩の動きは悪くなってしまいます。その状態が長く続くと肩への負担が増え、肩の腱や筋肉が損傷して悪循環に陥り、遂に手術が必要な状態になってしまいます。
 肩のリハビリでは、肩の疾患そのものによって生じる痛みや悪くなった関節の動きを改善するだけでなく、全身のバランスを整える必要があります。そのためリハビリテーションは専門性が高く、自己流で行うとかえって悪化することも多々あります。私は、肩に関しては、肩の専門医の診察を受けたうえでリハビリテーションを行う必要があり、またリハビリテーションだけでは不十分で、良い状態を維持するための継続したトレーニングやケアーが必要と考えています。